研究課題
特別研究員奨励費
本研究では、水圏における一次消費者であり水圏生態系のキーストーン種として重要な役割を担う小型甲殻類における、生態毒性物質の作用メカニズムの解明を目指す。OECDの毒性試験対象種であるオオミジンコDaphnia magnaを研究対象種として、生態毒性物質への暴露に応答して発現量が変化する遺伝子を同定すること、さらにその中から応答性の高い遺伝子を利用して、作用メカニズムに基づく新たな毒性評働系構築の可能性を探ることを目的とした。本年度は、オオミジンコを用いた遺伝子発現解析の実験を行う為の基礎的な情報を蓄積するために、昆虫の幼若ホルモンのアナログであるフェノキシカルブによりオオミジンコにおいてその発現が抑制されることが既に明らかとなっているビテロジェニン遺伝子を解析対象とし、オオミジンコの生長や飼育環境に伴う発現量の変化を詳細に解析した。その結果、オオミジンコのビテロジェニン遺伝子は、卵を産出する2令前から発現が確認された。またその発現は各令の令期後半に顕著に増加する周期性を有し、卵の生産量が増加するに従って発現量も増加することが明らかとなった。さらに、ビテロジェニン遺伝子の発現量は、飼育密度が高くなると増加することが明らかとなった。オオミジンコは2〜3日間隔の令期を持ち、脱皮と産仔を繰り返す。従って、今回確認されたビテロジェニン遺伝子以外にも、卵形成や成熟に関連する遺伝子は短期間に発現量が大きく変化することが考えられる。化学物質によるこれらの遺伝子発現への影響を正確に評価するためには、飼育環境の均一性を維持し、数時間レベルで脱皮(令)周期を把握するような厳密な飼育環境の構築が不可欠であることがわかった。
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