研究概要 |
遺伝子工学技術の発展により、蛋白質の大量調製が可能になってから、蛋白質の構造解析例は飛躍的に増加した。しかし、立体構造の決定された蛋白質の数は1次構造の決定されたものと比べると桁違いに少ない。蛋白質の機能が立体構造なくしては語れないのは明らかであり、3次構造の迅速決定の必要性はますます増大している。本研究では解析にかかる時間と労力の大部分を占めている位相決定をルーチン的に行うためのシステムを開発することを目的とし,リボソーム蛋白質を対象に,そのSe-Met置換体を作製し,放射光施設を利用して回折データを収集し,多波長異常分散法による構造解析を試みた.リボソーム蛋白質としては,遺伝暗号解読センターに存在し,16S RNA結合蛋白質であるS7とペプチジルトランスフェラーゼ活性センターを構成する23S rRNAに直接結合するL2を選んだ.これらの蛋白質は,50数個存在するリボソーム蛋白質の中でも,最重要蛋白質とみなされている.リボソーム蛋白質S7は,30SサブユニットのHead部分に存在し,decoding領域を形成する役割を担った残基数155の蛋白質であり,16S RNAのdecoding領域,mRNA,A,PサイトのtRNAなどに隣接している.私達がこれまでMAD法を適用した蛋白質と比べ,S7は,残基数155,Se原子が6個と,解析にやや困難が予想されたサンプルであったが,ESRFにおいて4波長でMAD法用の回折データを収集し,存在する6個のSeのすべての位置を決めることができ,構造解析に成功した.一方,L2は,ペプチジルトランスフェラーゼ活性センターの構造形成に重要な役割を果たしているとともに,自らも酵素活性に直接に関与していることが推定されている.L2の結晶は空間群P1であり非対称単位中に2分子存在する.対称性が低いため構造解析は困難が予想されたが,PFで3波長のデータを収集し,パターソン関数を計算することで,6個のSe原子の内の4個までの位置を決めることができ,プログラムSHARP,SOLOMONを適用することで,非常にきれいな電子密度が得られ,2.3Å分解能での構造解析に成功した.
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