研究概要 |
研究代表者伊藤は,1995年12月,本研究の研究分担者であるPurdue大学Kubiak教授の研究室に赴き,同教授が当時開発したばかりの高性能電解赤外分光装置を用いて,ある種のルテニウム三核クラスター錯体の架橋二量体の一電子還元体の赤外吸収スペクトルの測定を行い,異常にブロードなCO伸縮振動スペクトルを観測し,これが分子内の動的過程に起因していることを示唆する事実を見いだした.相互に研究室を訪れ,類縁化合物を新たに合成して同様な実験を試み,また,吸収線形を解析するなど詳細な研究を行った結果,観測された現象が「三核クラスターユニット間の混合原子価状態における,ユニット間の分子内高速電子移動が誘起する赤外吸収バンドのコアレッセンス」であることが明らかとなった.赤外スペクトルのタイムスケールという極めて速い時間領域における動的化学現象が電磁波吸収スペクトルのコアレッセンスを引き起こしている例は,これまでほとんど知られておらず,それまでの成果を科学分野の最高級ジャーナルの一つであるScience誌に公表した〔Science,277,660-663(1997)).電子移動速度が最も速い系の速度定数は,10^<12>s^<-1>のオーダーであった.更に,混合原子価中心間の距離を種々変化させた化合物や,架橋配位子の種類を変えユニット間の電子的相互作用の程度を変化させた化合物を新たに合成し,これらの化合物系へ上記の電解赤外分光法を適用して高速分子内電子移動速度の評価を行った.
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