研究概要 |
本研究では、遺伝情報伝達において重要なDNA、RNA、ポリペプチドの移動、切断等、また生命活動において不可欠な糖質の異性化および認識等を促進する金属酵素において、非酸化還元活性な金属二核中心が果たす役割をモデル錯体を通じて明らかにし、その機能を生体により近づけることにより人工酵素的反応場の構築を試みるものである。具体的には種々の遷移金属二核中心と生体関連基質(リン酸エステル、糖質、核酸等)の相互作用について構造学的、分光学的手法を駆使し様々な角度から現象を明らかにする。このようなテーマは非常に広い分野にまたがるため特に国際的な共同研究体制が不可欠であり、本年度は米国マサチューセッツ工科大学においてリパード(研究分担者)グループとの間で、共同実験、意見交換、若手研究者の育成を行った。また、実験の結果について以下に述べる。 1) ヌクレアーゼ活性および糖質異性化能を有する蛋白酵素の活性中心に存在するカルボキシレート架橋二核金属イオン(Zn^<2+>,Mg^<2+>,Mn^<2+>)のモデルとなる錯体の合成を二核化配位子XDK等を用いて行い、得られた錯体の同定は、元素分析、IR,UV-Vis,NMRスペクトルのみならずX線結晶構造解析等により行いその立体構造を明らかにした。非常に多彩な二核金属中心、Zn_2,Mg_2,Mn_2のホモ二核系やZnMg,ZnFe,ZnCo,ZnNiのへテロ二核系、がXDK配位子により安定化されることが明らかとなった。 2) 糖質の異性化等の機能発現のため、糖質を配位子として導入したco(III)二核錯体、Mn(II)Mn(III)Mn(II)三核錯体を合成しその構造を明らかにした。特に、Mn三核錯体では、マンノースが二核中心に架橋した構造、さらに、マンノースがアマドリ転位によりケトースに異性化した構造が確認された。これらの知見は糖質異性化酵素(キシロースイソメラーゼ)との関連から非常に興味深い。 3) 生体内糖質代謝プロセスに対する多核金属中心を用いた人工システムの開発として、ビスカルボキシラト二核化配位子XDKを用いた亜鉛二核中心にグルコースを導入することに成功した。今後、糖質のへ種々の変換反応について研究を展開する予定である。
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