研究概要 |
本研究は,出芽酵母の減数分裂開始初期遺伝子群の転写制御におけるクロマチンの機能を明らかにすることを目的としている.出芽酵母の減数分裂は,飢餓状態においてマスター遺伝子的役割を持つIME1,IME2(Inducer of Meiosis)の逐次的転写の誘導によって開始される.一方,減数分裂が起こらない一倍体や栄養増殖細胞では,IME1,IME2の転写がそれぞれRmelp,Ume6pによって抑制され,減数分裂開始が阻止されている.このような細胞運命を決定する厳密な転写抑制は,単にアクチベーターとリプレッサーによる機構だけでは説明できず,クロマチンレベルでの制御が働いていると考えて,本研究を展開した.我々は,RmelPによる転写抑制機構として,RmelPが遠隔的にアクチベーターの結合を阻害することをin vivoで実証し,Rmelpが局所的に転写抑制クロマチンドメインを構築する,という新規のモデルを提唱した.この転写抑制クロマチンドメインではヘテロクロマチンのような高次の複合体の形成が示唆された.次に,ヒストン脱アセチル化酵素Rpd3pとUme6p複合体による転写抑制機構を解析した.その結果,ヒストンのアセチル化によってヌクレオソーム構造が変化して,転写因子の結合が調節されるという,従来のモデルでは説明できない.そして,ヒストン脱アセチル化による抑制機構として,TATAボックス結合蛋白質の結合阻害,またはRNAポリメラーゼIIホロ酵素のリクルートの阻止が重要であることを提唱した.以上,本研究において,遺伝子特異的リプレッサーRmelp,Ume6pがクロマチンを介して転写を抑制するメカニズムに関して新しいモデルを提唱した.本研究で対象としている転写因子のホモログは酵母から哺乳類にまで存在することから,真核生物に普遍的な転写抑制機構として適用できることが期待される.
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