研究概要 |
本研究は,副腎皮質の細胞層構築,層機能分化の分子機構の解明を,主に発生工学的手法を利用できるマウスを用いておこなった.本研究によって得られた新たな知見,今後の研究の展開について以下に記す. 1 マウス副腎皮質の球状層細胞のみを欠失させる実験を進めた.当初の計画より確実性の高い,標的遺伝子破壊法を用いて,チミジンキナーゼをアルドステロン合成酵素遺伝子のプロモーター下流に導入することを試みた.標的遺伝子破壊法の常法に従い,遺伝子導入ベクターを構築した.これを胚性幹細胞(ES細胞)へ導入し,相同組換え体を得ることに成功した.今後この組換え体を用いて,キメラマウスを作製し,さらにこの遺伝子座についてヘテロな動物個体を得,薬剤ガンシクロビル投与によるコンデイショナルな細胞の欠失を行う. 2 機能的に末分化な細胞層の性質を持った不死化細胞株の確立を行った.温度感受性の不死化遺伝子を持ったトランスジェニックマウスを用い,副腎から細胞のクローン化を行った.得られたクローンの性質を解析した結果,ミネラルコルチコイド合成酵素,グルココルチコイド合成酵素のいずれの遺伝子も発現していない細胞株を得た.この細胞株は,不死化遺伝子産物の非許容温度へのシフトにより,分化しうることが判明した. 3 マウス束状層細胞を用いたところ,AP-1因子群(束状層に特異的に存在し,グルココルチコイド合成酵素遺伝子の転写活性化因子)は,副腎皮質刺激ホルモンACTHにより,束状層細胞内に転写活性化能の強い分子種が誘導され,グルココルチコイド合成酵素遺伝子の発現を転写の段階で調節することが判明した. 4 マウス副腎皮質に,ラット副腎皮質の未分化な細胞層と同様の細胞層が存在すること,等が判明した.
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