研究概要 |
眼球運動は脳内で精密にコントロールされており、微細な脳機能障害を検出できる。本研究者らは、antisaccade task,memory guided saccade taskの課題を用いて、健常成人、前頭葉の障害患者、パーキンソン病、精神疾患患者、健康な小児において検討してきた(Fukushima et al 1988,1990,1994)。最近、Biscaldiらは、express saccadeの出現が多い人達に反射性のsaccadeの抑制困難が見られること、そして学習障害のdyslexiaの患者にこれらの所見が多く見られたことを報告している。従って今年度は、文部省の中間報告の定義による学習障害児(LD児群)7名においてexpress saccadeの出現を調べ、さらにantisaccade task,memory guided saccadetaskによって反射性saccadeの抑制機能を見るため、同年齢の健常児9名と比較した。 結果は、LD児群も健常児群も課題をよく理解し、全体の80-100%の施行は解析可能であった。Express saccade(85-135msec)やantisaccade taskでの視標を見てしまうエラーは多くの例で見られ、その出現率には両群間で有意差はなかった。しかし、antisaccade taskでの潜時はLD群では有意に遅れていた。Memory guided saccade taskでは、エラーがLD児群では有意に多く認められた。Memory guided saccade taskにおけるエラーとexpress saccadeの出現率の間には高い相関があった。年齢との関係を調べると、express saccadeが出現する割合、antisaccade task,memory guided saccade taskでのエラーの数は、健常群では年齢とともに減少する傾向があるのに対して、LD群では年鈴の高い例でも多く見られた。どの課題でも振幅、速度には有意差はなかった。これらの結果は、LD児群での大脳皮質の成熟の遅延を示唆すると思われる。
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