本研究の目的は、2言語を同時に獲得する同時バイリンガル児の文法獲得過程を解明することにより、人間の心の発達について考察していくことである。具体的には、幼児の2言語獲得過程をその最初期から縦断的に観察し、文法獲得のメカニズムを調査しようとするものである。現在、2言語(日本語と英語)を誕生時から同時に獲得できる環境におかれた幼児を数例観察できる機会に恵まれている。したがって、これらの同時バイリンガル児達がどのような過程を辿って両言語の文法を獲得して行くのか考察することになる。 平成9年度の観察計画は、まず第1に、進行中の縦断的観察を続行することであった。観察は、今まで通り隔週で被験者らの家庭を訪問し、ビデオまたはカセットテープにその発話をおさめた。母親達の観察データも参考にした。加えて、随時、人形や絵カードなどを使用して抽出実験をおこなった。 第2に、バイリンガル児のデータとの比較のために、日本語の束縛形式「自分」「自分自身」「彼自身」の獲得について横断的研究をおこなった。3歳児から7歳児まで約90名を被験者として用いた。具体的には、3つの束縛形式の主語指向性と非主語指向性、長距離束縛と局所束縛、c-統御の獲得について調査をおこなった。調査は実験者と被験者の1対1のインタビュー形式をとった。実験者は絵を見せながら刺激文を言い、被験者に実験者の発話と絵が一致しているかどうかを判断させた。実験は規模を拡大して現在も継続中である。
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