研究概要 |
本研究では,滋賀県琵琶湖の粟津湖底遺跡から採取された縄文時代の獣骨化石および愛媛県宇和島の海底から採取されたナウマン像の臼歯化石から硬蛋白質コラーゲンを抽出し,更にコラーゲンからアミノ酸の分離を実施した.コラーゲンおよびアミノ酸の回収率をチェックすると共に,これらの炭素,窒素含有率,炭素安定同位体比,さらに^<14>C年代測定を実施した.その結果,以下のことが明らかになった. (1)粟津湖底遺跡の獣骨化石(^<14>C年代値は約4600yrBP)では,ゼラチンコラーゲンの収率は0.56〜3.80%と,かなり高い値を示した.それらのC/N比は3.0〜3.2の値を持ち,試薬コラーゲンの範囲3.2±0.5に入る.しかし,^<14>C年代は,収率が0.56,0.62%と悪い2点の試料については,明らかな若返りが検出された.この2点は,他の試料より風化が進んでおり,若い炭素の混入があったと推察される.コラーゲンの炭素含有率は38.6〜44.8%と高い値を示した. (2)アミノ酸の^<14>C年代値はゼラチンコラーゲンのそれより古い値を示し,同じ地層の木片について得られた^<14>C年代値に近くなる傾向を示す.このことから,ゼラチンコラーゲンは年代の若い有機不純物(フルボ酸,フミン酸,など)が完全には除去できていないことが推察される. (3)回収されたアミノ酸は,純粋なアミノ酸単体ではなくアミノ酸集合体である.液体クロマトグラフィを用いて,アミノ酸集合体の種類文理を行った。粟津湖底遺跡の獣骨化石のアミノ酸試料では、ごく通常のアミノ酸の存在が確認できたが,愛媛県採取のナウマン象臼歯(1.2%の収率で回収されたゼラチンコラーゲンを用いて29,200±870yrBPの年代値が得られた)から採取したアミノ酸では,ごく数種のアミノ酸単体が確認されたにすぎない.ナウマン象化石は,風化が進んでアミノ酸の一部が分解され失われていることがわかる.
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