研究概要 |
本研究の目的は,完全に人工的で良質のフォトニック結晶を機械的なマニピュレーションにより微粒子を積み上げて製作する手法を確立し,フォトニック結晶の光学特性を光波領域で系統的に明らかにすることにあった. 「原子」には直径2μm,屈折率1.6のポリスチレンラテックス球を用い,これを電子顕微鏡に取り付けたマイクロマニピュレータをジョイスティックで操作して三角格子状に単層最密配列した.配列に先立って,球の半径を購入した顕微鏡画像取込装置を用いて記録し,直径が±0.5%の範囲に収まっているものだけを選別した.また,基板による影響を除去するために,厚さ300nmのSiNメンブレンを用いた.結晶外形は六角形とし,一辺が1〜6個の異なるサイズの結晶を製作した. これらの結晶にフーリエ変換赤外顕微分光装置を用いて直線偏光された赤外光を入射して透過スペクトルを計測し,結晶サイズ,入射角度,偏光方向,結晶方位の影響を系統的に調べた. その結果,結晶サイズが大きくなるにつれて2つの透過率の谷が成長し,ベクトル球面波展開法による無限結晶についての計算結果に近付くことがわかった.これは個々の球の寿命の短い仮想束縛状態が,格子を組むことによって寿命の長いバンド状態へと成長していく様子を表している.また,入射角度が大きくなるにつれてこれらの谷がシフトや分裂を示し,その傾向は偏光により異なることがわかった.この結果からフォトニックバンド図を直接的に求めることができ,その結果は理論計算の結果と概略で一致した. これまでの光波帯のフォトニック結晶の実験ではわずかの格子欠陥の影響により理論に対応する結果は得られていなかったが,今回初めて光波帯でも理論と比較しうる良質の結晶を実現することができた.
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