Moは溶液中では金属酸イオンを形成し単独では電析しない。しかし、Fe、Co、Niなどの遷移金属イオンが溶液中に存在すると、Moイオンはこれら金属イオンと合金を形成し電析することが知られている。この誘起共析型めっきと呼ばれる不思議なめっき機構については、ほとんど分かっていない。そこで、本研究では、溶液中のある特定金属イオンの周りの原子構造を決定できるX線異常散乱法及びEXAFS法を用いてMoイオンとNiイオンの環境構造を決定し、それを元にクエン酸イオンの添加量とポリモリブデン酸イオンの形状変化について詳細に検討した。その結果、pH5の酸性水溶液中では、Moイオンは6個の酸素イオンに囲まれており、歪んだMoO_6八面体を基本構造単位として、ポリ酸を形成していることが分かった。そして、Moイオンしか含まない水溶液中では、このMoO_6八面体が7個辺共有して集まった大きなポリモリブデン酸イオンを形成しており、Niイオンが共存する場合には、Niイオンの周りを6個のMoO_6八面体が辺共有して囲んだ形のヘテロポリモリブデン酸イオンを形成していることが分かった。しかし、このような大きなポリモリブデン酸イオンはクエン酸イオンの添加によって、錯体の形成と共に小さな1個のMoO_6八面体のモリブデン酸イオンに分解し、このような状態ではじめて、合金めっきが可能になることが分かった。
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