研究概要 |
本研究では,これまで集めた約100種類の光合成細菌でその反応中心遺伝子とリボソームRNA遺伝子の塩基配列を決定し,光合成細菌の詳しい系統樹を作成することを目的とした.また,シアノバクテリアや植物の酸素発生との関係で,様々な光合成細菌が酸素のある環境にどのように適応しているかを,多面的に研究した.それにより,地球史における酸素の出現と増加が,生物とどう相互作用してきたかを明らかにすることをめざした. 1.光合成細菌の光化学反応中心遺伝子の塩基配列の決定と系統関係の解析 光合成に一番大切な光化学反応中心複合体の遺伝子の塩基配列を決定し,光合成器官に関した系統樹を作成した.本研究では,新たに数種の細菌を加え,解析方法に改良を加えた.その結果,クロロフレクサスが最古の光合成細菌である可能性が,ますます高まった. 2.緑色光合成細菌の新種の検索 長野県の中房温泉より,新種と考えられる好熱性の光合成細菌を検出した.最古の光合成細菌と考えられるクロロフレクサスの近縁種であり,光合成誕生時の地球の温度環境が60度程度であったことを示唆した. 3.光合成と地球史における酸素環境変動の関連づけ さまざまな光合成細菌の環境への適応性と系統関係を総合的に判断すると,光合成誕生時には,すでに低濃度の光合成由来でない酸素が存在したと考えられた.その後しばらく酸素発生を伴わない光合成の時代が続き,やがて酸素発生を行う光合成の時代が訪れたと考えられる.酸素発生を伴わない光合成の時代は,数億年から十数億年と推定された.
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