研究概要 |
ABO_3型のペロフスカイト型酸化物(例SrTiO_3,SrZrO_3,SrCeO_3)において、4価のBサイトの一部を3価のScやYで置換した酸素欠損体をつくると、水素(水蒸気)雰囲気中の高温でプロトンによる電気伝導が起こる現象を、構造と電子物性の相関をふまえた理論の立場からしらべた。3次元の酸素八面体ネットワークの中でプロトンの位置を求めると、(a)O・・・O稜線上、(b)酸素八面体内のO・・・O間、(c)隣合う酸素八面体間のO・・・O間、という3種類の最隣接サイト間移動があり、各ホッピング素過程のポテンシャル曲線を描いてプロトン挙動の顕著な違いを見つけた。H^+は一つのOの周りで方向を変えて動き回る運動((b)、(c)の組み合わせ)を頻繁に起こすことが予想され、ドイツのマックスプランク研究所によるMDシミュレーションの傍証を得た。プロトンの安定位置は、SrTiO_3系のときR_<o-H>〜1.0Å、H-O-O角は約8^<>で、わずかに酸素八面体内部に入り込んだところにあり、中性子回折のデータとよい一致を見た。R_<o-o>を変化させながら零点振動やトンネル運動を計算すると、水素(H)と重水素(D)とで物理量に顕著な同位元素効果が現われ、プロトンの移動が伝導機構を直接担うことを証明した。プロトンは酸素欠損の存在による格子振動により、量子運動のH(D)同位元素効果が最大になったところでホッピングするが、このR_<o-o>に対するR_<H-H>=0.5Åが中性子回折の結果と一致することから、(a)の素過程が電気伝導を律速していることを示した。また素過程ごとに活性化エネルギーΔのR_<o-o>依存性をしらべて、SrTiO_3系,SrZrO_3系,SrCeO_3系のプロトン挙動の違いを比較し、ホールバーニング分光や赤外吸収の実験データを説明した。以上により、プロトンがペロフスカイト構造の中を量子運動して電気伝導を担う様子を解明し、実験データを見事に解析するとともに、分子動力学法によるシミュレーション結果と符号するプロトン伝導の様子を、一つの理論の枠内で矛盾なく説明することに成功した。さらにこれらを元にして、格子歪みによるプロトンの拡散係数の温度変化や拡散経路を予測し、今後の発展性を示した。
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