研究概要 |
独自に開発した,液滴を微小蛍光セルとして利用し,自己吸収の影響を受けない発光スペクトル観測法を応用して,混合溶液の液滴および,液滴からの溶媒脱離により生成する異種分子混合微小固体中での電子エネルギー移動過程について研究を行った。市販の加湿器を利用した装置でペリレン(Pe)/ピレン(Py)混合溶液([Py]=1.1×10^<-3>M,混合比:[Pe]/[Py]=5.2×10^<-2>)の微小液滴を発生させ,320nmの色素レーザ光でピレンのみを励起し,生じた発光を分光器で観測した。その結果,ピレンのモノマーおよびエキシマー発光に加えて,ペリレンモノマー発光の振動構造が同程度の強度で現れた。この事実から,励起ピレン分子からペリレン分子への電子エネルギー移動が,ペリレンの低い混合比にもかかわらず,ピレンのエキシマー生成と同程度の速度で起こることが明らかになった。また,液滴環境温度の変化(7℃上昇)による溶媒脱離によって,混合微小固体(結晶)を生成して発光スペクトルを観測したところ,ピレン,ペリレンのモノマー発光はいずれも完全に消失し,ピレンエキシマー発光だけが観測された。この事実は,混合固体中では,(1)励起ピレン分子からピレンエキシマーが生成する速度が,ペリレン分子へのエネルギー移動よりも溶液状態に比べて非常に速い,(2)発光・吸収波長の重なりがあるにもかかわらず,ピレンエキシマーからペリレン分子へのエネルギー移動は起こっていない,ことを意味している。過去に,ペリレンをドープしたピレン結晶からのピレンエキシマー発光中にペリレンの吸収が現れるという報告があるが,これは固体中での単なる再吸収過程の観測にすぎず,本質的なエネルギー移動過程の存在を意味するものではないことも明かにした。以上のように,複数の溶質分子を含む溶液の微小液滴および液滴からの溶媒脱離による混合微小固体の生成を利用して,固体中の電子状態およびエネルギー移動の研究が可能であることを実証した。
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