研究概要 |
超臨界水の水素結合構造に対する直接的情報であるプロトン化学シフトの測定に世界で最初に成功し、権威あるPhys.Rev.Lett.とJ.Chem.Phys.に論文を発表した。研究成果の要点は次のとおりである。 (1)耐熱耐圧にすぐれた石英キャラピラリー試料管の開発によって超臨界水のNMR実験を可能にした。キャピラリー法によって、まず気-液2相共存領域から臨界点付近まで測定した。超臨界水の密度一定での高温実験を450℃まで行い、温度効果と密度効果を切り離し、両者を独立変数とする解折を可能にした。 (2)高温領域でも使用可能な(分解しない)標準物質(内部または外部基準)は今のところない。そこで、状態方程式から超臨界水の密度を計算し、有効内部磁場を求めるための磁化率補正を行う絶対的方法でプロトン化学シフトを求めた。これは標準物質が使えない場合の化学シフトを求める方法として新しいものである。 (3)水素結合が広い範囲の温度と密度の変化によってどのように変化するかを詳細に検討した。2相共存から均一相への転移点までは温度による水素結合の切断が顕著であるが、転移点以上の超臨界水に対する温度効果(封じ込めてあるので密度は一定)による化学シフト(水素結合の強さ)は非常に小さく、化学シフトの温度依存性はほとんどフラットである。このことは、温度効果でなく密度効果が超臨界水において重要であることを示している。臨界密度付近およびそれ以上の密度では化学シフトの値が孤立分子の値(基準ゼロ)よりもかなり大きな、有限の値を示すので、この超臨界領域の水分子間の水素結合が完全になくなり、単純液体のようになっているとした中性子回折の実験結果(Nature誌,Postorino et al.,1993)は支持されない。 (4)SPCモデルによる超臨界水の計算機シュミレーションを0.2〜0.7g/cm^3の広い密度範囲で行い、水のプロトン化学シフトの理論的モデルを構築し、実験データの分子論解釈を進展させた。
|