研究概要 |
我々は近年、五次、七次の高次非線形現象に着目し、凝縮相の振動状態ダイナミクス、おもに位相緩和に対する新しい時間分解振動分光法を実験的、理論的に開発してきた。本年度はCDCl_3のCD伸縮振動とCHCl_3のCH伸縮振動の基音と倍音(v=2および3)の位相緩和を五次、七次の分光法を用いて調べた。 液体中で観測される振動の倍音(v=2,3,...)のスペクトル幅(Δv(v))はほとんどの場合、基音のそれにくらべて広くなる。この倍音のスペクトル幅の振動量子数(v)依存性は位相緩和のメカニズムにより大きく変わるため、しばしばΔv(v)から線幅の均一・不均一性や分子間相互作用などが調べられてきた。 高次非線形分光法を用いて得られた基音と倍音の信号はほぼ単一指数関数で減衰していることがわかり、また時定数の比は(τ_<v=1>/τ_<v=2>)約2.3であった。この結果は今まで用いられてきた確率論的(stochasitc)モデルでは明らかに説明することができない。そのため、理論的なモデルに対していくつかの改良が検討されたが、まだ結果を十分説明することができていない。例えば、共鳴効果による位相緩和の影響を調べるためにCHCl_3:CDCl_3の1:1混合液体を調べたが、このような効果は重要でないことがわかった。その他、エネルギー緩和や、回転-振動相互作用、液体分子の慣性的な運動などの効果が検討されたがいずれも理論的予測からのずれには重要な寄与をしていないことがわかった。 現在、この理論からのずれの原因として分子の多原子分子性を考えている。例えば、モード間の非調和結合(off-diagonal coupling)があげられる。また、注目している倍音の準位と他の倍音や結合音とのカップリングの影響などが考えられるが、まだ定量的な議論がされたわけではなく、今後の研究の課題となっている。
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