研究概要 |
分子系超格子構造を作製するための一手段である有機分子線エピタキシ-法は,結晶成長におけるエピタキシ-現象を利用したものであり,より望ましい特性を備えたヘテロ構造を作製する手段として有力なものの一つと考えられる.しかしながら,有機物に関するエピタキシ-現象については未だ十分に理解されたとは言えず,これをヘテロ構造の作製に用いるためには,更なる基礎研究が必要である.そのため,以下の2点について重点的に研究を行った. 1 分子-基板間相互作用計算の解析的取り扱い エピタキシャル配向の予測を目指し,分子-基板間相互作用の解析的評価を行う方法を検討した.特に,基板結晶の周期性に着目し,分子-基板間の相互作用をフーリエ級数展開することにより,このフーリエ係数を解析的に表現することを行った.これにより,従来のようなクラスターを基にした相互作用計算を越えた,より正確で速い計算が可能となることが明らかとなった.これを実際の系に適用し,perylene-3,4,9,10-tetracarboxylic dianhydride (PTCDA) のアルカリハライド基板上でのエピタキシ-,縮合多環芳香族炭化水素結晶間のエピタキシ-を説明できることが明らかとなった. 2 基板温度が薄膜成長様式に与える影響 有機エピタキシャル薄膜成長様式の基板温度依存性を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて調べた.グラファイトを基板としてPTCDA薄膜を成長させた場合,基板温度が低い場合にはFrank-van der Merwe型の成長するが,基板温度が高い場合にはいわゆるStranski-Krastanov型の成長をすることが明らかとなった.薄膜の結晶構造を透過型電子線回折法により調べた結果,成長に伴う格子歪み緩和の影響が示唆された.
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