研究概要 |
本研究はジヒドロニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)モデル化合物として9,10-ジヒドロ-10-メチルアクリジン(AcrH_2)および1-ベンジル-1,4-ジヒドロニコチンアミド(BNAH)を用い、その水素原子、プロトン、ヒドリド移動反応におけるトンネル効果について系統的な研究を行なうことを目的としている。1.NADHモデル化合物から安定中性ラジカルへの水素移動反応におけるトンネル効果 AcrH_2からインドリノンニトロキシドラジカル等の中性ラジカルへの水素移動の速度には速度論的重水素同位体効果が認められそのアレニウスプロットから得られたΔH^≠_D-ΔH^≠_H,ΔS^≠_D-Δ^≠_Hの値は古典的には説明できない大きな値となった。従って、この水素移動には顕著なトンネル効果があることがわかった。2.NADHモデル化合物からラジカルアニオンへの水素移動反応におけるトンネル効果 BNAHおよびAcrH_2は2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノセミキノンラジカルアニオン(DDQ)へ水素移動反応速度にも速度論的重水素同位体効果が認められ、プロトン移動に対してもトンネル効果があることがわかった。3.NADHモデル化合物からキノン類へのヒドリド移動反応におけるトンネル効果 AcrH_2およびその重水素化体AcrD_2から2,3-ジシアノ-p-ベンゾキノン(CN_2Q)へのヒドリド移動反応には、大きな速度論的重水素同位体効果が認められ、ヒドリド移動反応速度の低温でのアレニウスプロットの折れ曲がりが観測された。これは、プロトン移動過程におけるトンネル効果のためであると考えられる。
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