研究概要 |
海洋表層の水温が変動すると海水柱に熱的な膨張・収縮が生じ、海水位が変動する.この変動はSteric Height Anomaly(SHAと記す)と呼ばれるが,本研究は,このSHAを見積もることで,逆に海面における正味の熱フラックス量を推定することを試みる.今回は,SHAの成分を海面高度計変動データから抽出する手法について検討する. TOPEX/POSEIDON高度計のデータと,同時期のERS-1高度計のデータから求めた北太平洋の海面力学高度の分布の時系列に,Complex Empirical Orthogonal(CEOF)解析を行ってモード分解し,SHAに相当するモードの有無を検討した.CEOF解析は位相伝播する信号も抽出できるため,ロスビー波の伝播なども含むが,SHAを求める目的では中規模擾乱の伝播の影響は除去する必要がある.ここでは東西方向に10°,南北方向に2°の平滑化を行った.CEOF解析の結果,有為なモードのうちで第一モードと第二モードに年周期で変動する信号が現れた.これらのモードは,全変動量のうち,それぞれ33%と12%に相当していた.ECMWFの熱フラックスと数値モデルから計算した,高度計と同じく期間のSHA(Stammer,1997)に同様にCEOF解析をかけたものとこの結果を比較すると同じく年周期を示したSHAの第一モード(34%)とSHAの第二モード(12%)に,それぞれ時空間パターンも変動高度の大きさも良く一致していた.従って,SHAの変動の半分程度に相当する,北太平洋で系統的に変化する成分は,現在の方法で推定ができると考えられる.ただし,南北緯10°以内の赤道域においては,両者に差異が見られた.これは,実際の海面力学高度場が風の影響を強く含んでいるためだと考えられる.今後,海域を区分するなどの方法で,比較的系統的でないSHAの変化も推定できるようにする予定である.
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