研究概要 |
昨年度の研究において,表題のオリゴマー合成を行い,電気化学的測定により電気化学的なポテンシャル勾配が形成されていることを確認した.本年度は,次の目標であるポテンシャル勾配とオリゴマー鎖に沿った電子移動挙動との関連の解明に向けた研究を開始した.そのためには,ユニット間の電子移動挙動の基本的理解を得ることが必要であり,二量体の一電子還元体(骨格間混合原子価状態)における分子内電子移動を詳細に調べた.この目的のために,カルボニルを含む左右対称な構造を持つ9種のRu_3二量体を新たに合成した.その電気化学的挙動に基づき,骨格間混合原子価状態を電気化学的に発生させ,電解分光法を用いて赤外および近赤外領域のスペクトルの測定を行った.ピラジンのような骨格のπ電子を伝達しやすいような架橋配位子を含む二量体系ではかなり安定な混合原子価状態が得られ熱的な分子内電子移動が発現するのに対し,π電子をもたないdabco架橋の系では分子内電子移動は事実上起こっていないことが明らかとなった.ピラジン架橋二量体系について,電解分光法を利用し一電子還元状態のCO伸縮振動スペクトルを測定したところ,分子内電子移動に基づく吸収帯のコアレッセンス現象が観測された.分光学的吸収帯が観測時間と同じタイムスケールの化学現象により融合する現象はNMRで翌知られているが,振動スペクトルの時間領域でこのような現象が見出されたのは世界で初めてである.その線形解析から速度定数を見積もったところ,最も速い系では10^<12>s^<-1>のオーダーであることが明らかとなった.置換基の効果により熱的電子移動速度定数が2-3桁小さくなった系については,近赤外領域に現れる骨格間のITバンド(原子価間電子移動吸収)の形状から速度定位数に関する知見が得られた.
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