研究概要 |
タキソ-ルはイチイ科の植物から単離された高度に酸素官能基化された多環性ジテルペンである.制癌剤として実用化が急がれており,効率的な不斉全合成が強く望まれている.報告者は二ヨウ化サマリウムによる還元カップリング反応を用いることで,タキソ-ルの複雑な縮環系が効率よく構築できると考えた.このタイプの環化反応は環化と同時に酸素官能基が導入できる点,近傍の酸素官能基による立体制御の可能性がある点などから,高度に酸素官能基化された多環性骨格の形成には大変都合がよい.タキソ-ルの最も効率的な合成法の一つとして,中央の8員環部分(B環)をピナコール型カップリング反応により環化するルートが考えられる.報告者らはやはり高度に酸素官能基化された多環性ジテルペンの一つであるグラヤノトキシンの全合成において,同様の二ヨウ化サマリウムによるピナコール環化反応を用いて,7員環を立体選択的に閉環した.この際,水酸基の隣接基関与をうまく利用すると,環化反応が著しく促進され,かつ立体制御されることを見出している.そこで,この手法をタキソ-ルの8員環構築に適用することにした.オキセタン環部分(D環)を省略したモデル化合物で二ヨウ化サマリウムによるピナコール型カップリングを用い,B環の閉環を試みることにした.将来のタキソ-ルの全合成も視野に入れ,モデル化合物の合成に必要な二つのセグメント(A環部分とのC環部分)の簡便な大量合成法を確立し,さらに,両セグメントのカップリングを行った.
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