特異な架橋中員環構造を有し強力な抗ガン作用を示す天然物タキソ-ルは、天然からの供給が微量のために、効率の良い合成法の開発が急務となっている。本研究では、平成8年度に引き続き架橋中員環構造構築法としての骨格変換法を精密化するとともに、本法を適切な官能基を有する基質に適用し、タキソ-ルのAB環部からなるモデル化合物の効率良い合成ルートを確立することを目的とした。5-4縮環型及び7-4縮環型ケトン類から架橋7員環および9員環化合物への骨格転位反応を、橋頭位の置換基と用いる酸触媒や反応条件を検討して精密化を行い、本変換反応を確立した。次に、架橋7員環化合物の5員環部に5員環を融着させた後5-5縮環部の結合開裂により8員環を構築してタキソ-ルモデル化合物を合成する計画を立て、重要中間体の官能基を有する架橋7員環化合物を、5-4縮環型ケトン誘導体の骨格転位により合成することとした。種々の5-4縮合型ケトン誘導体を合成し骨格転位を検討した結果、アレンとイソプロピルシクロペンテノンとの光付加で容易に得られる6-イソプロピル-7-メチレンビシクロ[3.2.0]ヘプタン-2-オンを5当量の四塩化チタンと室温で短時間反応させると、エキソメチレン基を有する架橋7員環ケトン誘導体が効率良く得られることが判明した。さらに、そのエキソメチレン部位を手掛かりに化学修飾を行い、6-(シアノエチル)-ビシクロ[3.2.1]オクタン-7-オン誘導体の合成まで完了した。現在、ヨウ化サマリウムを用いる5員環融着反応を検討している。
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