研究概要 |
これまで、1,1-ジブロモアルケンをパラジウム触媒下にスズヒドリドにより加水素分解を行って立体選択的にZ-ブロモアルケンやZ-ブロモジエンを導き、そして、これらをパラジウム触媒下にクロスカップリング反応をさせてZ型ポリエン化合物やエンイン化合物を合成した。本研究では、これらの反応の具体的な応用として、海洋産フラノテルペノイドである(2Z)-デヒドロデンドロラシン及び視覚物質として重要な(11Z)-レチナ-ル類の合成を達成した。 (2Z)-デヒドロデンドロラシンはオーストラリアのグレートバリアリ-フに生息する海綿から単離された酸や光や熱に極めて不安定な油状化合物である。その構造は末端のフラン環とZ,E,E型に連続したトリエン部分とがメチレン鎖でつながった特徴を有している。本合成では、3-フリルアセトアルデヒドを原料に5段階で(2Z)-デヒドロデンドロラシンに導く事が出来た。この際、トリエンに由来する幾何異性体は全く観察されなかったことから、一連のポリエン合成方法は極めて有効であることがわかった。 (11Z)-レチナ-ルはレチノイド蛋白のオプシンと特異的に結合し、視覚の発現制御にかかわっている。その過程でレチナ-ルが視物質のシグナル分子として働くには、11位のGeometryがその発色機能に不可欠である。(11Z)-レチナ-ルの合成においては、11位のZ型構造を含む5つの連続した共役アルケンを如何に立体化学をコントロールして合成できるかが問題である。そこで、これまで展開してきた1,1-ジブロモアルケンから(1Z)-ブロモアルケンの合成法、およびパラジウム触媒下の立体特異的なクロスカップリング反応を用いて合成を試みたところ、幾何学的に純粋な(11Z)-レチナ-ルを合成することが出来た。
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