研究概要 |
土堤を原則とする河川堤防は,大都市のように高い安全度が要求される場合,巨大な盛土構造物となる。一方,大都市が展開する平地の多くは沖積軟弱地盤であって,地震時に河川堤防の大被害が生じることは稀ではない。これは,堤体重量が地震時の液状化地盤に巨大な変形外力として作用し,沈下量と同体積の地盤が側方に流動することによる。 そこで,本研究では,まず,地震時における河川堤防の沈下に関する資料の収集に努めた。最近の地震のものについては比較的詳細な資料も入手することができたが,1970年以前の資料については概要のみであった。ついで,この河川堤防の重力を受けた基礎地盤の流動を,重力場において移動する圧力境界条件下での高密度流体の変形挙動と近似的に捉えて,ラグランジュ的・オイラー的取扱いを組合わせた流体解析手法を適用して模擬し,これによって,地震時の河川堤防の沈下過程を予測し被害規模を推定しようと試みた。このため,そのような解析手法であるSOLA-VOF法のプログラミングを高密度,高粘度の流体を対象として行い,堤体下部を圧力境界とする単純な境界条件下で解析を実施した。解析の初期では,圧力境界の移動が小さいため,その追跡は容易であって計算は安定的に進んだが,時間の進行とともに,圧力境界位置の判定が困難となり,現在のところ,地盤-堤体系の挙動を完全にはシミュレートできる状況には至っていない。 しかしながら,本解析手法の適用性がかなりの程度明らかになったので,今後,本研究の成果を活かし,境界位置の判定条件を緻密にしながら変形過程を追跡していき,かつ,圧力境界以外の基礎地盤の境界形状を複雑化するともに,液状化地盤の適切な構成関係を取り込み,モデルをより精緻にしていくつもりである。
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