研究概要 |
1次元Co原子鎖をfcc PdあるいはCu母体中に規則的に配列させた、1次元的構造を持つ人工的超格子に対し、s,p,d軌道を考慮し、d軌道内の原子内多重極相互作用を取り入れた拡張ハバ-ド模型を考える。これを、ハートレー・フォック近似で取り扱うことにより、Coのスピン・軌道磁気モーメント(M_S,M_O)の原子環境依存性を理論的に調べた。電子の原子間移行積分などのパラメータは、LDAに基づく第一原理計算を参考に決め、F^0を除くスレータ積分等は高エネルギー分光の解析から得られているものを用い、F^0だけを自由なパラメータとする。 バルクFe,Co,Niに対しこの計算で得られたM_Oは、M_Sの10%程度かそれ以下であり、実験とよく対応している。一方、磁場中の純粋な1次元原子鎖では、M_OはM_Sと同程度であり、広いd電子数の領域で、量子化軸を鎖方向にとった場合のM_Oの方が、鎖に垂直にとった場合のそれより大きい。即ち、鎖の周りに電流が流れ易い。 Pd中の適当なCo 1次元的超格子では、M_O/M_Sは純粋1次元の場合と比べて小さくなるがバルクに比べてかなり大きい。また純粋1次元の場合と同様、鎖方向の量子化軸に対し、よりM_Oは大きくなる。一方、Cu中の同じ超格子に対しては、鎖に垂直方向でよりM_Oが大きくなる。Pd母体中では、格子定数が大きいため、Co-Co間の距離が大きくなる一方、Co3d-Pd4d混成が大きく、純粋1次元の場合と異なる環境にあると考えられる。それに対しCu母体中では、Co3d-Cu3d混成が比較的小さいため、より1次元に近い状況が実現していると考えられる。Cu母体に対し得られた上記結果がどの程度一般的かを今後検討する。
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