研究概要 |
電解重合ポリピロールの超薄膜に酵素を包括したセンシング電極は,感度は高いものの,保存時および繰り返し使用時に酵素分子が溶脱して感度低下をきたしやすい。酵素分子が固有の等電点(pl)をもち,使用時の媒質中では正か負に帯電していることに着目し,それと逆符号の電荷を膜自体に導入することでこの欠陥を抑制できると考え,酵素電極系としては初めての試みを行った。具体的には,使用時の媒質中で正に帯電している西洋わさびペルオキシダーゼHRPを酵素とし,通常のピロールと,4‐(3‐ピロリル)ブタンスルホン酸ナトリウム塩をHRP共存下で電解共重合して酵素電極を得た。共重合の進行は,元素分析,二次イオン質量分析,走査型電子顕微鏡観察により確認した。得られたデバイス(過酸化水素センサー)の再現性はきわめて良好であり,5回の独立な作成において一定濃度の過酸化水素に対する応答還元電流値のばらつきは10%内外であった。ダイナミックレンジは約10^<-3>Mから2×10^<-3>Mの4桁以上に及んだ。電解重合時の溶液のpHを振ったところ,予想どおり,pHが低いほど(酵素の取り込み量が増して)センサーの感度が上昇した。2週間後の保存安定性は,通常のポリピロール電極が30%低下のところ,共重合電極は17%低下にとどまった。また,繰り返し使用時の安定性を3週間にわたって詳細に比較したところ,通常のポリピロール電極は初期感度の約100分の1に低下した一方,共重合電極は60%以上の感度を示した。以上より,高性能センシングデバイス開発に包括膜の分子レベルデザインが有効であると結論した。
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