研究概要 |
本研究は、炭素結合生成を伴う有機金属反応の理論計算を行い、その化学反応の特徴を支配する電子的因子を明らかにすることによって、分子設計や反応設計の基礎となる情報を得ることを目的としている。ここでは、1)Pd-Co複核錯体でのCO挿入反応の反応機構についての理論的検討を行った。このような多核錯体での化学反応の電子論的特徴を調べるには単核錯体や、さらには典型元素化合物の反応を調べ、比較することは重要である。そこで、2)Ru錯体触媒によるオレフィンへの芳香族ケトンのCH結合付加の反応機構、3)アルキン錯体からビニリデン錯体への異性化、4)リンイリド、ヒ素イリドでのスティーブンス転移の反応機構、5)NOとXCO(X=H,F,C1)の反応の機構に関する理論的検討も行った。1)では、(H_3P)_2(CH_3)Pd-Co(CO)_4とCOが反応し、(H_3P)_2(CH_3CO)Pd-Co(CO)_4を与えるモデル反応系について反応機構の検討をB3LYP法を用いて行った。様々な反応経路の可能性があるが、現在のところ、メチル基とCoに配位しているカルボニルが直接結合を作り、アシル基がCo上にできる反応経路(活性化エネルギー、26kcal/mol)が存在することを明らかにした。2)の反応の高選択性の要因を明らかにするために、モデル触媒反応サイクル(芳香族ケトン:ベンズアルデヒド、オレフィン:エチレン、ホスフィン:PH_3)についてB3LYP法を用いた理論計算を行い、最も有利で、かつ、オルト選択性を説明する反応経路を理論計算で明らかにした。
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