研究概要 |
1,3-ジエンは共役しているのが特徴であり、かつ一般的である。2つのオレフィンをつなぐ単結合で“十分にねじる"と共役の度合いは乏しくなる。この時、一方のビニルC-H結合は他方のオレフィンのp軌道とσ-π軌道相互作用することにより活性化されると予想される。しかし、このようなビニル水素の反応性に焦点を当てた研究例は見当たらない。本研究では、“ねじれ"という単純な概念に起因する1,3-ジエンの特異な性質としてビニル水素の反応性に焦点を当て、その理由の究明と新たな合成方法への展開を検討した。まず十分にねじれた1,3-ジエンの合成法の確立を意図し、(3Z)-5-alkyl-2,6-dimethyl-2-alkoxy-3,5-heptadieneについて検討した結果、ビニルトリフラートと金属アセチリドとのPd(0)触媒によるカップリング反応、つづく選択的な水素添加による合成法を確立した。次にheptadiene化合物の一重項酸素酸化反応を検討した結果、嵩高い置換基を持った系ではアリル水素に優先してビニル水素の選択的なエン反応がおこり、アレン化合物が70%の収率で得られた。一方、置換基効果のないねじれた1,3-ジエンの系では、アリル水素とビニル水素の持つ固有の反応性を比較することができ、その結果、十分にねじられた1,3-ジエンのビニル水素はアリル水素と同程度の反応性を有するという結果を得た。これらの結果は、各々のフロンティアオ-ビタルの電子密度の計算結果とよく対応しており、その妥当性が裏付けられた。 他方、β-ionol誘導体の一重項酸素酸化によるアレン生成反応を用いて、アレンカロテノイドのアレンセグメントの合成を検討した結果、官能基及び立体選択的な水酸基のアリル転位を実現させ、首尾よくアレンセグメントの合成を達成した。
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