研究概要 |
当初計画した,(I)ジチイラン-オキサジチオランの異性化の置換基効果の解明,(II)光学活性ジチイランオキシドのラセミ化の置換基効果の解明,(III)テトラチオランの合成と反応性,の3つのテーマのうち、(III)に重点を置き研究検討を行った。なお,テトラチオランやジチイランオキシド上の二つの置換基は,l-アマダンチル基あるいはt-ブチル基である。 1.テトラチオランがヒドラゾンと一塩化硫黄の反応で数%の収率で得られることはすでに報告した。今回は,チオケトンと一塩化硫黄の反応によりテトラチオランが中程度の収率で得られることを見いだし,収率の改善に成功した。また,テトラチオランの反応性について検討したところ,トリフェニルホスフィンや亜リン酸トリメチルによる脱硫反応ではチオケトンのみが生成し,硫黄が一つあるいは二つだけ脱離したトリチエタンやジチイランの生成は認められなかった。熱分解反応ではチオケトンとともに,脱硫してカルベンが発生したのち置換基が転位して生じたアルケンが得られた。一方,ジメチルジオキシランによる酸化を行ったところ,低温下でテトラチオランオキシドが生成し,昇温することによりこれがチオケトン,スルフィンとともにジチイランオキシドに変換されることを見いだした。今回得られたジチイランオキシドは,分子内にカルボニル基を持たない初めての化合物である。 2.ジチイランオキシドの反応性についての検討を行った。cis-あるいはtrance-ジチイランオキシドのクロロホルム中での熱分解反応では,S-O結合のcis-trance異性化が進行し,ジチイランオキシドのcis-体とtrance-体の混合物とともにE-およびZ-スルフィン,チオケトン,ケトンを与えることを見いだした。トリフェニルホスフィンによる脱硫反応では,cis-ジチイランオキシドからはZ-スルフィン,trance-ジチイランオキシドからはE-スルフィンを立体選択的に生成することがわかった。
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