研究概要 |
1.本課題平成9年度においては、ビスマス=炭素およびビスマス=窒素二重結合を有する高原子価有機ビスマス化合物-ビスマスイリドおよびビスマスイミド-の化学を中心に検討を進めた。 2.2-オキソアルキリデン型ビスマスイリドは1,2-ジカルボニル化合物と低温で円滑に反応するが、生成物の構造は基質の骨格に大きく依存することが明かとなった。すなわち、鎖状ケトエステルとの反応では2,3-二置換エポキシドが、オルトキノンとの反応では3-ヒドロキシトロポンが、さらにベンジルとの反応では非対称1,3-ジケトン由来のエノラートが生成する。いずれの反応においてもトリフェニルビスマス基は中性の良好な脱離基として作用し、遷移状態における立体的混み合いの違いが各反応経路に大きな差を与えているものと思われる。 3.オルト位に適当な配位性官能基を導入することによりビスマスイミドを空気中でも安定に取り扱える化合物として単離し、X線結晶構造解析によりその構造を明らかにした。もとめられたビスマス=窒素結合の距離は単結合のそれに近いこと、配位性官能基がビスマス中心と大きく相互作用していることから、超原子価構造がこの結合の化学的安定化に大きく寄与していると思われる。 4.ビスマス原子上に異なる3つのアリール基を持つ非対称トリアリールビスマスイミドの合成に成功した。近傍にオキサゾリン置換基を有する場合、H-NMRにおいてビスマス上のキラリティに反映すると思われるジアステレオトピックなシグナルを与える。これらのキラリティの評価は構造化学的に大変興味が持たれるところであり、現在その詳細について検討中である。
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