研究概要 |
生体分子中の典型元素どうしのインターエレメント結合はS及びSeが関与するものに限られる.チオレドキシン(Trx)類似酵素群の触媒機構には,-SHや-S-S-,あるいは-SeHや-SeS-が反応基あるいは中間体として本質的に関与する.Trx類似酵素群の触媒機構(SH基活性化機構)の観点からインタエレメント結合の生物利用の分子進化を明らかにすることを目標に基礎的な研究を行なった.Trx類似構造酵素の一つであるグルタチオントランスフェラーゼ(GST)の触媒機構において,GSHのチオール基のpK_aを下げて生理条件下でプロトンを解離させることが重要である.我々は,この触媒機構において細胞質型GSTファミリーが少なくとも3つのタイプに分類できることを明らかにした.すなわち,GSHチオール基のpKaの低下にN末端付近のTyrが関与するもの,Serが関与するもの,そして,TyrもSerも関与しないものである.大腸菌GSTは,この第3のタイプに属する.大腸菌GSTのX線結晶解析からは,Cys10の側鎖チオール基,主鎖NH基,His106の側鎖イミダゾール基がGSHチオールの近傍に位置することが示されたが,部位特異的変異によりCys10Ala,His106Asnの変異を同時導入してもGSH1mM,CDNB1mMの条件下でpH6.5での比活性は野生型と比べて低下しなかった.ただし,k_<cat>やK_mなどのパラメーターには影響が見られた.また,反応のpH依存性も変化しており,Cys10側鎖とHis106側鎖がGSHの結合や,酸性条件下での活性に重要であることが示唆された.しかし,中性条件下でのGSHチオール基の活性化には,むしろCys10主鎖NH基が重要と思われる.
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