研究概要 |
Pb(Zr,Ti)O_3(PZT)強誘電体はぺロブスカイト型結晶構造を有していて,Zr richな組成では菱面体晶,Ti richな組成領域では正方晶のである.これまでの状態図でははこれらの2相はMPBと呼ばれる異相境界で分けられていて2相共存領域はないとされていた.それに対して本研究ではまず,通常の個相反応でMPB近傍の組成のPZTを数種類作製して,粉末X線回折法によりMPB近傍での2相の存在比の正確な組成依存性を求めた.その結果,室温においてはこれまでMPBが存在するとされていたZr/Ti=53/47の組成を挟んで5%の共存領域が存在することがわかった.これの原因としてぺロブスカイト構造の酸素サイトに試料作製時に導入される酸素欠損が考えられる.一方,PZTはマイクロ波周波数領域で誘電分散をする.この分散は強誘電分域の分域壁が外部電場の振動に追随できなくなるために生じる.従って,誘電分散を調べることにより分域壁の易動度,振動の活性化エネルギーを求めることができる.この現象は組成,結晶構造あるいは結晶構造中の欠陥に大きな影響を受ける.そこで本研究では誘電率の周波数,温度依存性を測定するシステムを作製して,誘電分散周波数の温度依存性から振動の活性化エネルギーを求め,その値の組成依存性を求めた.その結果,活性化エネルギーはMPB近傍で高くなっていることがわかった.これは菱面体晶,正方晶の2相が共存するため,結晶粒中に歪みが蓄積されているためと解釈される.また,polingを施して分極の方向を揃えると,やは分域壁が動きやすくなっていることもわかった.
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