本研究の目的は、素粒子の質量の起源の一つの可能性としての素粒子の超対称複合模型を追求することであった。これに向けてまず、トップクォークが他のクォークやレプトンに比べて非常に重いことを説明するような超対称複合模型について考察した。 素粒子の標準模型においては、クォークやレプトンの質量はそれらとヒッグス粒子の間の湯川結合の強さに応じて決まる。特にトップクォークが他のクォークやレプトンに比べて非常に重いことは、トップクォークに関する湯川結合が非常に強いことを意味する。一方、我々はパイ中間子と核子の間の湯川結合の起源とそれが強い結合であることを、それぞれの粒子がクォークで構成される複合粒子であり、さらに背後に強結合の量子色力学が存在すると考えることによって理解している。この類推として、トップクォークとヒッグス粒子を複合粒子と考え、背後に強結合超対称ゲージ理論を仮定することによってトップクォークが重いことを説明できる可能性がある。このアイデアはずでにA.NelsonとM.J.Strasslerによって取り上げられていたが、超対称性や電弱対称性の自発的破れが具体的に考慮されておらず、したがって真にトップクォークが重いことの説明になっていなかった。 そこで、このアイデアに基づきかつ超対称性の自発的破れも含む模型の構成を試みた。その結果、未だ観測されていない超対称粒子に大きな質量を自然に与えるような模型を構成することに成功した(ただし、第三世代のみの模型)。さらにこの模型においては、超対称性の自発的破れとトップクォークの強い湯川相互作用の両方の働きにより、電弱対称性の自発的破れが力学的に起こることがわかった。したがって、トップクォークが他のクォークに比べて重いことを、複合粒子のアイデアで説明することが可能であることが示されたことになる。
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