大腸菌のDNA修復蛋白質AdaはDNA修復反応に伴う自身のCys69チオール基のメチル化により、特定のDNA配列(ada遺伝子のプロモーター領域及び他のDNA修復蛋白質をコードするalkA遺伝子のプロモーター領域)に対する親和性が千倍以上大きくなり転写制御因子として作用する。僅か一個のメチル基の付加が引き起こす立体構造上の変化により、活性が大きく変化するため、Adaはタンパク質の機能スイッチのよいモデル系となると考えられる。さらに興味深いことにAdaはada遺伝子に対しては負の転写制御を行ない、alkA遺伝子に対しては正の転写制御行っている。このメカニズムを解明するには、DNAと蛋白質の相互作用を分子レベルで詳細に解析することが必要である。そこで、NMRを用いて転写制御活性を特つメチル化したAda蛋白質N末ドメイン(N-ada16k)とDNAの複合体の解析を行った。大腸菌の大量発現系を用いてNMR測定に必要な20-40mgの蛋白質試料を得た。また、アルキル化剤処理によりメチル化したDNAとN-ada16kを室温で反応させることにより、N-ada16kのDNAメチルトランスフェラーゼ活性を利用して、Cys69のメチル化を行なった。NMRスペクトルの結果よりCys69だけを選択的にほぼ、100%メチル化したN-ada16k(me-C69 N-ada16k)を得ることができた。N-ada16kが転写制御因子として作用する機構を調べるためme-C69 N-ada16kとada並びにalkAプロモーター領域のDNAとの複合体の^<15>N-^1H HMQCスペクトルの解析を行なった。DNA添加時のスペクトル変化により結合部位の情報を得た。me-C69 N-ada16kはada遺伝子のプロモータ領域にはhelix-turn-helix DNA結合モチーフの領域とCys69を含む亜鉛結合部位の2カ所でDNAと特異的結合をしていた。alkA遺伝子の場合、新たにN末端部位もDNA結合に関与しているため、この領域がDNAコンセンサス配列の上流と結合すると考えられた。即ち、Adaタンパク質はaikA遺伝子の場合、3ヶ所でDNAと結合していると考えられる。この違いが転写活性の違いにつながると示唆された。
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