研究概要 |
本研究で用いたUT-7/GM細胞株は顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で未分化のまま長期維持され、GM-CSFのかわりにエリスロポエチン(EPO)を添加すると一週間で殆どの細胞がヘモグロビン陽性の赤芽球へ分化する。いままでの研究でわかったことは、(a)UT-7/GMをGM-CSFで刺激するとSTAT1α、STAT3、STAT5が誘導されるが、EPOで刺激するとSTAT5のみが誘導され、STAT1αとSTAT3は誘導されない。しかし同時にGM-CSFを添加し、赤芽球分化を阻止するとSTAT1αとSTAT3が誘導されるようになる。(b)EPO添加によりG1期が延長し、GM-CSF添加によりこのG1期延長が解除される。本研究(平成9年度)では以下の点を明らかにした。(a)サイトカイン刺激とp21/WAF-1の発現:G1期の延長が赤芽球分化の引き金になっていることがわかったので、このG1期を制御していると思われるサイクリン依存性キナーゼ阻害因子p21の発現の違いをGM-CSF刺激とEPO刺激で比較検討した。GM-CSF刺激後1時間でp21/WAF-1mRNAの急激な発現上昇がみられた。しかしEPO刺激ではこのような一過性の発現上昇はなかった。さらにGM-CSF刺激下では1時間から3時間をピークとしたp21/WAF-1蛋白の発現を認めた。一方EPO刺激では6時間後にその発現がみられたが、その程度はGM-CSFに比して弱かった。(b)STAT蛋白とp21/WAF-1の発現:p21/WAF-1のプロモータ領域にはSTAT1α結合領域が3カ所認められる(TATAボックスから上流からSIE-1,SIE-2,SIE3と命名)。そこでこれらの領域を含む遺伝子にレポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子をつなぎ、レポーター活性を測定した。その結果SIE-1,SIE-2,SIE-3を含むプロモーターを用いた場合にGM-CSF刺激により最も高い活性が認められたが、EPO刺激ではその程度は低かった。一方SIE-3を除くとGM-CSFによるその活性は著明に低下した。そこでSIE-3に結合するSTAT蛋白の同定を試みた。その結果GM-CSFによるSIE-3に結合するSTAT蛋白はSTAT1αとSTAT5のヘテロダイマーであることがわかった。 以上の結果からGM-CSF刺激後に認められるp21/WAF-1の発現にはSTAT1αとSTAT5の活性化が深く関与していることが明らかになった。
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