研究概要 |
ヒトのがん組織から高頻度に活性型が検出されるc-Ha-rasがん遺伝子がほぼ全臓器で発現しているプロト型c-Ha-ras遺伝子導入ラットを作成し,以下の臓器における発がん感受性の亢進について確認した。 1.乳腺の発がん感受性 50日齢のc-Ha-ras雌トランスジェニックラットにN-methyl-N-nitrosourea(MNU)50mg/kgを1回静脈内投与したところ,8週間という短期間内に100%の動物に乳腺がんが多発した。対照群のnon-Tgラットでは29.2%であり、有意に乳腺の高発がん感受性を示すことを明らかにした。MNU投与により誘発されたTgラットの乳腺がんにおいて,導入したc-Ha-ras遺伝子ならびに内在性のc-Ha-rasの変異は全く認められなかったが,対照群に発生した乳腺がんでは,内在性のc-Ha-ras遺伝子の変異を比較的高率(28.6%)に認めた。さらに,乳腺に対する発がん物質である7,12-dimethylbenz[a]anthracene(DMBA)40mg/kgの投与によっても,このTgラットは、がんの発生期間,発生頻度ならびに発生個数いずれの項目においても,対照群と比較して高発がん感受性を示すことを明らかにした。 2.膀胱発がん感受性 生後6週齢のc-Ha-rasTg雄ラットにN-buthyl-N-(4-hydroxy-bytyl)nitrosoamine(BBN)を0.05%の用量で10週間飲水投与し、全期間20週で屠殺し、膀胱を病理組織学的に検索したところ,ヒトに類似した表在性膀胱がんが発生し、個数において発がん感受性の亢進が認められた。膀胱がんの発生頻度には non-Tgラットと比較して有意な差は認められなかった。TgラットにおけるBBN誘発膀胱がんではごく低頻度に内在性のc-Ha-ras遺伝子にのみ変異が認められた。
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