研究概要 |
Rasは互いに一次構造上相同性の見られない多くの因子と相互作用し,活性化する.そこで,それらのターゲット認識・活性化機構の間にどのような共通性や特異性があるのかを明らかにすることをめざした.Ras結合時のRaf-1およびRGL(RalGDS LiKe)のRas結合ドメイン(Ras binding domain;RBD),さらに,Raf-1 RBDおよびRGL RBD結合時のRasについて,NMR法による立体構造解析を行った.その結果,両ドメインは,立体構造的な「共通フレームワーク」をもっているが,少しづつ異なった認識を行っていることが明らかとなった.このことは,RasおよびRGLの変異体を用いた解析からも示された.Raf-1 RBDとRap1A(E30D/K31E;Ras型変異)変異体との複合体の結晶構造より,RasのGlu31がRaf-1 RBDによるRasの認識に重要であることが示唆されていた.しかし,我々は変異体を用いた解析,NMR解析および分子モデリングおよび分子動力学(MD)シミュレーションにより,RasのGlu31とRaf-1 RBDのLys84との間の水素結合は不安定であり,RasのAsp33とRaf-1 RBDのLys84との間の水素結合の方が安定であることが示された.さらに,Rasの31番の残基の変異体を用いた解析から,31番の残基がLysのときのみRaf-1のCys-richドメイン(CRD)と異常に強い結合を示し,この性質がRaf-1の活性化を阻害すると考えられた.
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