研究概要 |
Ptdlns(4,5)P2は、多くのアクチン結合蛋白質と結合し、アクチンの重合脱重合を調節していることが明かになっている。本研究では、細胞の接着のメカニズムにPtdlns(4,5)P2がどの様な役割を担っているかを解析することを目的として、第一に、接着斑の形成に重要な役割を担うビンキュリンにおけるPtdlns(4,5)P2の結合部位を決定し、ビンキュリンとα-アクチニン間などの相互作用に及ぼすPtdlns(4,5)P2の効果を検討した。ビンキュリンは90 kDaのheadと30 kDaのtailから成るが、tail部位であるアミノ酸917-970にPtdlns(4,5)P2が結合することが明らかになった。ビンキュリンのheadとtailは分子内会合することで、ビンキュリンとタリンとの結合が阻害されていることが報告されている。そこで、次にビンキュリンとα-アクチニン間の結合に対するPtdlns(4,5)P2の影響を検討した。Ptdlns(4,5)P2存在非存在下、ELISA法で両者の結合を検討した所、Ptdlns(4,5)P2が存在する場合には、ビンキュリンとα-アクチニン間の結合が促進されることが判明した。 Ptdlns(4,5)P2量を制御するPLCγ1は細胞骨格の調節に関わることが示唆されているので、チロシンキナーゼ活性化に伴うPLCγ1のチロシンリン酸化がアクチン繊維の構築にどう関与するかを検討した。まず、783番目チロシンリン酸化したPLCγ1を特異的に認識する抗体を作製した。このPLCγ1チロシンリン酸化抗体を用いて、Balb/c 3T3細胞をPDGF刺激した際のチロシンリン酸化したPLCγ1の局在を調べた所、細胞膜ラッフリング部位に存在することが明らかになった。Western blotによる解析では、PLCγ1のリン酸化と細胞骨格へのトランスロケーションの相関が観察された。更に、このリン酸化抗体を細胞に微量注入した場合には、PDGFで誘導される細胞膜ラッフリングとストレスファイバーの消失が阻害されることが判明した。これらことは、活性化したリン酸化PLCγ1が、接着班等でPtdlns(4,5)P2を分解し、Ptdlns(4,5)P2を減少することでビンキュリン、α-アクチニンを介したアクチン繊維の脱重合を導いていると考えられる。Ptdlns(4,5)P2の分解はセカンドメッセンジャーを産生し、核へのシグナル伝達にも重要であるが、細胞骨格の調節、細胞接着にも重要な役割を果たしていると思われる。
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