研究概要 |
がんの浸潤・転移に一群のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の関与が知られている。本研究では、ヒト性ホルモン依存性腫瘍の乳癌や子宮内膜癌を中心にしたヒト固形癌において、一群のMMPとそのインヒビター(TIMP)の発現と産生レベルおよび発現細胞の局在について検討し、以下の諸点を明らかにした。 1).ヒト乳癌組織においては、7種類のMMPのうちMMP-1,2,3,9とTIMP-1が正常乳腺組織より有意に高値であるが、これらの産生量と転移とは相関しなかった。しかし、潜在型MMP-2活性化率とリンパ節転移は正の相関を示し、潜在型MMP-2活性化酵素の模型MMP(MT-MMP)のうち、MT1-MMPの発現レベルと相関した。また、MMP-2とMT1-MMPは乳癌細胞膜上と癌細胞にそれぞれ免疫染色された。 2).ヒト子宮内膜癌では、MMP-1,7,8,9の産生量が正常乳腺組織より有意に高値であり、MMP-7のみがリンパ節転移と正の相関を示した。免疫組織学的にMMP-1は癌細胞と間質細胞に、MMP-8,9は炎症細胞に局在するのに対し、MMP-7は癌細胞に限局して認められた。MMP-7の癌細胞での特異的発現は、in situ hybridizationでも示された。また、癌組織では活性型MMP-7が特異的に検出された。 3).ヒト胃癌ではMMP-7の産生が正常胃粘膜組織より高く、免疫組織化学的に胃癌細胞が特異的に染色された。胃癌細胞におけるMMP-7染色率は、血行性転移とリンパ行性転移陽性群で有意に高値であった。また、MMP-7はin situ hybridizationで癌細胞特異的に発現されていた。 以上のデータより、ヒト乳癌の転移にはMMP-2/MT1-MMPが重要であり、子宮内膜癌ではMMP-7が主体であることが明らかとなった。また、これらのMMPはいずれも癌細胞膜上で作用する点で共通しており、転移が癌細胞自身による能動的作用であることに一致する。
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