研究概要 |
蛋白質のチロシン残基を特異的にリン酸化する酵素であるチロシンキナーゼは細胞の増殖及び分化に直接的に関与すると考えられている。我々は1990年に非受容体型チロシンキナーゼTecの遺伝子クローニングを報告し、これまでTecキナーゼがinterleukin(IL)-3,IL-6,EPO,G-CSFなど広範なサイトカインの細胞内シグナル伝達機構に関与することを明らかにしてきた。本研究計画においてTecをめぐるシグナル伝達を解析した結果、サイトカインが惹起する細胞増殖機構の中でもc-fosがん原遺伝子の転写活性化をTecキナーゼがつかさどることを明らかにした。したがって細胞増殖の基本コンポーネントの一つであるc-fos遺伝子の転写調節にTecファミリーのキナーゼが関与すると予想される。さらにTecキナーゼを相互作用するシグナル伝達分子を酵母のtwo-hybrid法を用いてスクリーニングし、計6種類のTec会合蛋白質の遺伝子クローニングに成功した。興味深いことにそのひとつはphosphatidylinositol-3 kinase(PI3K)の調節サブユニットであった。Tecはこのサブユニットのチロシン残基をリン酸化し、それによってPI3K活性を正に調節することが判った。PI3Kの活性調節がチロシン残基のリン酸化による例は世界ではじめてであり、サイトカインによるPI3K調節機構に新たな知見が加えられた。
|