研究概要 |
分化・成熟途上の胎児性組織を発生母地とする腫瘍群の分子病理学的解析の結果,以下の点を明らかにした. (1)Wilms腫瘍を合併する奇形症候群であるDrash症候群では全例WT1遺伝子のexon7-10に点突然変異が認められた.その内,5例はsplicing donor siteにあたるintron9に変異がみられ,splicing isoformである+KTS/-KTSの異常を来していた.病態の解析からこれらはFraiser症候群に相当しており,本症候群の責任遺伝子が初めて明らかとなった.同時にsplicing isoformsのうち,-KTS成分が性分化に関連する機能を有すること示唆された.WTlexon9-10の異常を同定は,Wilms腫瘍の発生と腎障害の病態を予測する遺伝子診断としても有用であることが明らかになった. (2)散発性肝芽腫8例について非腫瘍部,腫瘍部よりH19およびIGF2のPCおよびRT-PCR-RFLPを行った結果,3例では非腫瘍部肝でH19のimprinting(monoallelical expression,MAE)を受けており,腫瘍ではこの発現しているアレルが欠失していた。すなわち腫瘍では母親由来のアレルが選択的に欠失していた。4例はH19のプロモーター領域の高度なメチル化により,その発現が消失していた。このうちIGF2が,loss of imprinting(LOI)が2例、MAEの症例が2例であった。この結果は肝芽種における腫瘍発症にはIGF2のLOIよりもH19のLOEが重要であることを意味する。H19は肝芽種においてもimprinted tumor suppressor geneとして機能していることが示唆され、胎児性腫瘍に共通の癌抑制遺伝子と考えられる。 (3)Ewing/PNET腫瘍で85%にキメラ遺伝子が同定され,腫瘍の特異的な診断法として確立された.新たなキメラ遺伝子EWS/EIAFについてはcDNAの全塩基配列を決定し,転座点近傍の構造を明らかにした.
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