研究概要 |
要約:2種のヒト神経膠芽腫細胞株A-172及びT98Gを用い、各種感受性をコロニー形成法により測定した結果、野生型p53遺伝子を保有するA-172細胞ではCDDPによる放射線感受性の相加的な増加がみられたが、変異型p53遺伝子を保有するT98G細胞ではCDDPによる放射線感受性の減少がみられた。また各処理後のp53蛋白質の細胞内蓄積動態を抗p53単クローン抗体を用いた高感度ウェスタンブロット法により経時的に解析した結果、A-172細胞において放射線/CDDP併用処理による野生型p53蛋白質の蓄積誘導抑制がみられ、CDDP単独処理時の蓄積量とほぼ同様であった。以上の結果より、複数の制がん要因を癌細胞に与えると、野生型p53遺伝子を保有する細胞ではp53依存性のシグナルトランスダクションの交錯が生じ、それが細胞致死感受性の増感に影響していることが示唆された。 研究目的:本研究は、「放射線により誘導される細胞増殖調節シグナルと抗がん剤により誘導される細胞増殖調節シグナルとが細胞内でコンフリクト(衝突)することにより殺細胞効果が増感されているのではないか、またその現象はp53蛋白質依存性におこるのではないか」という仮説を立証するために、がん抑制遺伝子産物p53蛋白質をキ-蛋白質とする細胞増殖調節シグナル伝達経路からみた放射線化学療法、特に放射線とCDDPの併用における殺細胞効果の分子メカニズムを分子生物学的手法を用いて明らかにすることを目的とした。 方法と結果:(1)ヒト神経膠芽腫細胞株における放射線(X線)及びCDDP単独処理に対する感受性並びにX線/CDDP併用処理による殺細胞効果増感比の測定:2種のヒト神経膠芽腫細胞株A-172及びT98Gを用い、上記各種感受性をコロニー形成法により測定した。尚A-172細胞株は野生型p53遺伝子を保有し、T98G細胞株は変異型p53遺伝子を保有する。(Matsumoto,H.et al.,Cancer Lett,87:39-46,1994)。その結果、A-172およびT98G細胞のX線単独処理に対する感受性は、ほぼ同様であった。またCDDP単独処理に対する感受性もほぼ同様であった。しかしながらX線/CDDP併用処理に対する感受性には差がみられ、野生型p53遺伝子を保有するA-172細胞ではCDDPによる放射線感受性の相加的な増加がみられたが、T98G細胞ではCDDPによる放射線感受性の減少がみられた。(2)ヒト神経膠芽腫細胞株におけるX線/CDDP併用処理によるp53蛋白質の誘導動態の解析:2種のヒト神経膠芽腫細胞株を用い、各処理後のp53蛋白質の細胞内蓄積動態を抗p53単クローン抗体を用いた高感度ウェスタンブロット法により経時的に解析した。A-172細胞においてX線或はCDDP単独処理による野生型p53蛋白質の蓄積誘導を確認した。その蓄積量は処理後10時間目で比較すると、CDDP単独処理(D_<60>)による蓄積量はX線単独処理(D_<60>)による蓄積量の約半分であった。T98G細胞においてはp53蛋白質の蓄積誘導はみられなかった。またA-172細胞においてX線/CDDP併用処理による野生型p53蛋白質の蓄積誘導抑制がみられ、CDDP単独処理時の蓄積とほぼ同様であった。
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