研究概要 |
研究目的 DNAプライマーゼ及びテロメラーゼを分子標的とする新たな阻害剤を探索する。DNAプライマーゼは基質類似体ではRNAポリメラーゼも同時に阻害してしまい、特異的阻害は困難である。したがって基質とは構造が異なるスフィンゴシンは有望な候補である。テロメラーゼは、複製に際して短縮するクロマチンの末端テロメア構造を伸長して長さを確保するための逆転写酵素であり、正常組織には極めて低いが、がん細胞は一般に高活性を示す。従って、本酵素はがんと非がん部を鑑別するための有力な手段となり得ると同時に、がんに対する特異的増殖阻害剤の標的として有望である。 成果 スフィンゴシン及びその各種の誘導体を用いてDNAプライマーゼ阻害と細胞増殖抑制活性との相関を検討した。sphingosine,phyto-sphingosine,N,N'-dimethyl-sphingosineはDNAプライマーゼのin vitro反応を強く阻害し(Ki=1.5-3.0μM)、cis-sphingosineとdihydro-sphingosineは中程度の阻害を示し(Ki=10-15μM),C-2 ceramide,C-8 ceramide,ceramideは全く阻害しなかった。これらはプライマーゼ阻害の強さと比例してヒト白血病細胞HL60の増殖を阻害し、細胞はアポトーシスに陥った。スフィンゴシンによるDNAプライマーゼ阻害が細胞死の機構の一つであることが示唆された。又、DNAポリメラーゼβ阻害物質として極めて強い阻害活性を示す海洋性古細菌由来のエーテル脂質KN208を見い出した。KN208はヒト白血病細胞のDNAメチル化剤MMS感受性を増大させた。このことは、メチル化DNAの修復に関与するDNAポリメラーゼβを阻害することにより、薬剤感受性を高める可能性を示すものである。テロメラーゼに関しては阻害剤のスクリーニングを行った。テロメラーゼはラット腹水がん細胞(AH7974)の抽出物をゲルろ過カラムによりヌクレアーゼを除去し用いた。阻害物質は化学合成物質、天然物を中心として約15000種類をスクリーニングし、5種類の候補物質を得た。又、阻害の酵素特異性についてDNAポリメラーゼα、β、δ、ε、γ、HIV-RT、大腸菌DNAポリメラーゼI等の阻害と比較して検討した。
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