研究概要 |
FoF_1-ATP合成酵素のF_1部分には触媒部位と非触媒部位が存在する.この非触媒部位の役割を明らかにするために,ここに変異を加え,結合能をなくしたサブ複合体(α_3β_3γ)を作製し解析した.その結果,ATP水解における非触媒部位の役割は,触媒部位に阻害的に結合したADPを遊離させることであることが明らかに示された.さらに膜内在性のFoチャネルを通過するプロトン流とATP合成の共役に対する非触媒部位の役割を検討するために,FoF_1ホロ酵素を再構成し,バクテリオロドプシンとともにリポソームに組み込んでATP合成活性を測定した.するとATP水解をおこなわせると速やかに活性を消失するこの酵素が,合成は野生型と同じ程度に継続的に行えることが明らかになった. 通常FoF_1あるいはF_1-ATPaseのATP水解活性は負の協同性を示す.しかし,触媒部位近傍に存在するTyr341をCys,Leu,Alaなどに変えた変異体では,この協同性が正になることを発見した.この現象がBoyerによるbinding change mechanismのパラメーターの変化で説明できることを計算によって示し,実際の変異体の挙動を説明した. また,チャネルとポンプの関係を考察するためにモデルによる研究を行った.そしてマルチイオンチャネルの結合部位のイオンに対する親和性がエネルギー化と脱エネルギー化によって変化する,という枠組みで能動輸送が説明できることを示した.さらに輸送を起こすためには親和性の異なった状態の分布が非平衡にならなければならないことを明確にして,イオンポンプとイオンチャネルの共通性と本質的な差異を明らかにした.
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