研究概要 |
胃H^+,K^+-ATPaseは胃酸の分泌を行うプロトンポンプであり、消化性潰瘍治療剤であるプロトンポンプインヒビターの標的酵素である。私はH^+,K^+-ATPaseの構造-機能相関を、部位特異的変異導入法を用いて研究した。 1,ポンプのイオン認識部位の特定と認識機構の推定:H^+,K^+-ATPaseの触媒(α)サブユニットの6番目の膜貫通領域に存在する酸性アミノ酸、Glu-822,Asp-826を中心に変異導入を行った。Glu-822のGln,Leu変異体は酵素活性を失い、Ala,Asp変異体は部分的に活性を保持した。Ala変異体は、K^+親和性が野生型の20分の1に低下した。このことから、Glu-822がK^+の認識に(必須ではないが)重要であることが確認された。また、Asp-826のAla,Asn,Glu,Leu変異体が酵素活性を消失したことから、この残基が酵素機能の保持のために必須であり、置換できないことが確認された。さらに、6番目の膜貫通領域のアミノ酸の置換実験から、αヘリックスの片側にK^+の認識や、酵素活性に必須な残基が集中しており、イオン輸送路のような構造を作ることが考えられた。 2,K^+に競合的なプロトンポンプ阻害剤、SCH28080の反応部位、構造の検索:SCH28080はK^+の反応部位でK^+と競合的に作用して、H^+,K^+-ATPaseを特異的に阻害する。その反応部位は、光親和性標識実験からαサブユニットの1番目の細胞外ループのPhe-126,Asp-138に存在すると見られてきた。私はPhe-126,Asp-138に対する変異体、ループ部分のアミノ酸のアラニン変異体などを作製し、SCH28080に対する感受性を検討した。その結果、これらの変異体の薬物感受性は野生型と差がないことを確認した。一方、K^+認識部位が存在する6番目の膜貫通領域のアミノ酸に変異を導入すると、SCH28080感受性が顕著に低下した。このことから、SCH28080は1番目の細胞外ループではなく、6番目の膜貫通領域のK^+認識部位の近傍に反応することが考えられた。
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