研究概要 |
1.東南アジア地域におけるHIV株の分子疫学的特性に関する研究 ミャンマーにおけるエイズ流行の分子疫学的解析の結果,次のことを明らかにした。 1)ミャンマーでは,タイで最初に同定されたSubtype B/Thai-B(subtype B')とSubtype E/Thai-Aの少なくとも2サブタイプが流布している。2)ヤンゴンでは,IDUsおよび性感染者の双方ともsubtype B'が最も主要な流行株で,特にIDUsでは,Subtype B'がほとんど唯一の流行株である。3)異性間性感染が主要な感染ルートであるミャンマー東部や南部のタイ国境地域では,subtype Eが主要な流行株である。4)ミャンマー中部(マンダレ-など)や中国南部の雲南省との国境に近いミッチ-ナなどの都市では,subtype B'およびsubtype Eの双方が,IDUsおよび性感染者のいずれの集団においても混在して分布していることを明らかにした。上に述べた知見は,ミャンマーにおけるHIV流行のメカニズムを理解し,この地域における将来のワクチン戦略を考える上で有用な情報と考えられる。 2.HIV-1サブタイプEのウイルス学的特性の研究 わが国で見いだされたHIV-1サブタイプEの家族内感染例(父NH1[AIDS]→母NH2[AC]→子NH3[AC])から合胞体形成性(SI),非合胞体形成性(NSI)HIV-1を分離し,それをモデルとして解析を進めた。 (1)各エンベロープ(gp160)遺伝子をクローニングし,全塩基配列を決定した結果,SI型ウイルスのエンベロープ遺伝子V3ループには,NSI型ウイルスと比較して,i)塩基性アミノ酸置換の増加や,ii)N-結合性糖鎖付加部位の消失などの特徴的な変化が認められることを明らかにした。 (2)サブタイプBに属するLAI株の感染性分子クローンであるpLAIをbackboneとして,V3ループをサブタイプEのSIおよびNSI型ウイルスのそれと置換し,その結果,V3ループのみの置換によって,それぞれ,SI/NSI形質が伝達されることまた,HIV-1エントリ-コレセプターCXCR4/CCR5使用能が決定されることを明らかにした。 (3)さらにまた,overlap extension法によって,V3ループに組織的な変異の導入を行い,サブタイプE型ウイルスにおけるコレセプター使用域の決定にcriticalなアミノ酸残基を同定することに成功した。
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