研究概要 |
蛋白質の変性(D)状態やモルテン・グロビュル(MG)状態などの非天然状態について,分光学的には取得困難な構造情報を得るために,構造モデルのコンホメーションを計算機内に多数生成させ,X線散乱プロフィルの実測との対照から,モデルを検定する方法を開発してきた。その結果,α-ラクトアルブミンとシトクロムcのMG構造は,多部構造モデルで近似的に記述できることを見出すと共に,ミオグロビンのMG構造モデルを精密化し,更に完全変性(U)状態の構造に関しても新たな知見を得た。 (1)変性状態の構造,特に残存規則構造とその意義 292種の蛋白質の原子座標値を用いて,全残基の2次構造帰属を行い,coil部,coil+turn部および全2次構造部にある残基の主・側鎖2面角の確率分布を決定した。これらの2面角分布を用いて,ミオグロビンのU鎖のコンホメーションを生成させ,X線散乱プロフィルを実測と比較した結果,(a)D状態鎖は,天然(N)状態に近い主鎖2面角分布を示し,(b)一般に揺動的な局所規則構造をもつ,(c)この局所構造は,蛋白質の折り畳み初期における2次構造形成の核になり得ることを明らかにした。 (2)ディスタンス・ジオメトリ法を用いた非天然状態の候補構造生成法の開発 非天然状態で取り得るコンホメーションについて,原始的な多部構造モデルにおける制限を緩和する方法として,ディスタンス・ジオメトリ法を用いた候補構造生成法を開発した。 (3)酸性モルテン・グロビュル状態におけるミオグロビンの大局構造 (2)の手法をミオグロビンのMG状態に使用した結果,N状態だけでなくMG状態の構造を決定する因子としても,疎水相互作用が重要な役割を果たし得ることを明らかにした。
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