研究概要 |
ウシガエル(Rana catesbeiana)卵由来レクチン(RCEL)は、膵臓由来リボヌクレアーゼスーパーファミリーに属する111アミノ酸残基からなる蛋白質である。高エネルギー物理学研究所放射光実験施設(現高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設)において、RCELの結晶からの原子分解能のX線回折データを収集し、1.14Å解能においてプログラムX-PLORを用いて立体構造の精密化を行った後、プログラムSHELXL-97を用いてさらなる精密化を行った。Bulk solvent correctionを行った上で、単位格子中の1,374個の水分子を同定した。これら同定した水分子の占める体積は溶媒の占める体積のおよそ60%に相当する。引き続き、40,197個の反射データを用い、15残基毎にブロック化(1残基の重複)して9,589のパラメータに対して完全行列最小2乗法による精密化を試みた。その結果、R-factorが0.133、free R-factorが0.194となった。R-factorは異方性温度因子の精密化を行うと0205から0.164に大きく低下し、その後は徐々に低下した。温度因子の非常に低いアミノ酸残基では、水素原子に対する電子密度分布を観測することができた。温度因子のあまり低くないアミノ酸残基であっても、主鎖とβ炭素の水素原子に対する電子密度分布が認められるものがあった。RCELにおけるこれら水素原子の電子密度分布の見え具合は、リゾチームの重水素原子に対する中性子密度分布と同程度に明瞭である。すなわち、X線結晶構造解析でも原子分解能であれば、中性子結晶構造解析と同様に水素原子の位置を同定することができるということである。したがって、水素供与体と受容体のジオメトリーからの推定によらない、厳密な水素結合の同定が可能となる。
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