研究概要 |
タンパク質のアミノ酸配列中に、一個から十数個の長さの配列が規則正しく繰り返している所がある。これをタンデムリピートと呼ぶことにする。繰り返し配列はランダムな突然変異に対して不安定であるので、何らかの安定化の機構、もしくは変異に対して強い淘汰圧があると考えられる。同一のDNAの配列が繰り返す例もあるので、何らかの機構で、タンデムリピートの単位のduplicationと消失がたえず起こっているものと考えられる。タンデムリピートのこの生成と消失が起こらなくなった場合、規則的な高次構造は保存されても、アミノ酸配列の規則的な繰り返しは消失してゆくであろう。このようなものは、もはやアミノ酸配列上からは、タンデムリピートとはみなされず、その高次構造からのみ規則的ならせん構造を含む折りたたみのパターンとして見い出されることになろう。このようなタンデムリピートから由来したと考えられるモチーフがいくつか報告されている。 parallel β-helixは、右巻き、左巻きの両方のモチーフが知られている。hexapeptide repeatと呼ばれている左巻きのタンデムリピートの生成過程を解析した。配列の長い範囲にわたってisoleusine,valineを含む6残基の配列が繰り返すこのモチーフは、acetyltransferaseを含むいくつかのタンパク質に見られるが、全体としての類似性は高いにもかかわらず進化的に独立な小さな単位の重複によって生成したと考えられた。小さなドメインの繰り返しからなるタンパク質ではどうなのかをEF-ハンドタンパク質を例として解析した。SwissProt Databaseから、EF-ハンドとそれに類似した配列をすべて取り出し、これらの各ドメインの配列を用いて、FASTAによって、databaseを検索した。個々のドメインに類似な配列がどのサブファミリーに属し、EF-ハンドではない配列がどの程度、取り出されてくるかを、いくつかのカットオフ値で検討した。サブファミリーのなかで、立体構造が明らかにされているのは、CAM,TNC,ELC,RLC,PARV,S100,CALP,SARC,VIS,BM40,PIPの11である。これらの内で、CAM,TNC,ELC,RLC(=CTER)はcongruentであり、PARV,S100,CALP,SARCもCTERに弱い類似性を示す。これらのEF-ハンドタンパク質は、おそらく、単一の祖先ドメインから進化してきたものと推測される。PIPに関しては、酵母由来の配列がCTERと類似性を示すのみである。BM40は、配列の比較からはEF-ハンドとはみなしがたいが、databaseには、弱い類似性を示すものも多くはない孤立したサブファミリーである。これらはおそらく他のEF-ハンドタンパク質とは、進化的に関係がない祖先配列から独立に進化したのではないかと考えられる。これら立体構造上の制約からの収斂であり、配列においての収斂も見られるめずらしい例であると思われる。
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