本研究は、(1)内珠皮内被の細胞分化、細胞機能におけるAGL6遺伝子の役割、および(2)胚珠の成熟、胚嚢の分化、種子形成における内珠皮内被の役割を明らかにすることを主たる目的として進めてきた。しかし、研究の進行過程で新規に器官接着の制御に関わると考えられる突然変異体・遺伝子を同定したため、その解析を第三の目的に加え、本年度は、そちらを中心に研究を進めた。 表現型解析の結果、この突然変異体では萼片の表皮細胞間で後天的合着(ontogenetic fusion)がおきていること、成熟した萼片の表皮細胞が野生型植物の花粉管を発芽させる能力を有すること、等が明らかとなった。これらは、本来は心皮の一部の細胞に限定して発現する細胞間相互作用に関する発生プログラムが萼片の表皮細胞においても異所的に発現した結果と解釈される。当該遺伝子をACE(ADEHESION OF CALYX EDGES)と名付け、T-DNA挿入系統を用いてクローニングをおこなった。ゲノム・クローンおよびcDNAクローンの塩基配列の解析から、ACE遺伝子は6個のエクソンと5個のイントロンからなることが明らかになった。T-DNA挿入系統とは別に得た5系統のEMS突然変異体のうち調べた4系統で、いずれもG→Aの塩基置換を確認した。さらに、ACE遺伝子を含む約14kbのゲノムDNA断片によえうace-4変異の相補を確認した。ACE遺伝子は第1染色体下腕にマップされ、ACE遺伝子と高い相同性を示す少なくともひとつの遺伝子の存在も明らかになった。予想されるACE蛋白質は、FAD依存の酵素蛋白質で、青酸生成に関わる酸素であるmandelonitrile lyase(MDL)と全長にわたって高い相同性を示した。この相同性からはACE蛋白質の酸素活性を特定することはできないが、上クチクラのワックスの合成系の酵素のひとつであるという作業仮説のもとに実験を進めている。
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